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江戸川乱歩再読 [本]

江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者 (光文社文庫)
江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者(光文社文庫)

小中学生の頃は,かなりの読書家であった。学校の図書室や地域の図書館に入り浸っては,手当たり次第に読み耽っていたものだ。精神面の成長において,それはそれで良い効果があったとは思うのだが,弊害のようなものも実はある。一度読んだ本を繰り返して読むことをしない人だったので,当時読んだ本はその時の記憶のままなのだ。といっても,筋をすべて憶えている訳もない。記憶といっても,読んだ時の印象としてしか残っていないのだ。

以前,友人と話していた時に,当時愛読した本の話題でひとしきり盛り上がった。その時挙がった中で,ふと気になったのが,シリーズをひと通り読んだはずの,江戸川乱歩の作品である。

江戸川乱歩の作品は,天知茂が主演の明智小五郎ものをTVドラマでやっていたりしたくらいなので,本来は大人向けの小説であるはずだ。ドラマをちゃんと観たことはないのだが,江戸川乱歩と言えば,「エロ・グロ」ということで有名なようなので,そのまま子供に読ませていたはずがない。微かな記憶を掘り起こしみると,児童書のように,かなり平易な文体で書かれていたように思える。とすると,当時読んでいたのはなんだったのだろうか。

不思議に思ってWebを検索してみたところ,どこの図書館にも必ずずらっと並べられていた,ポプラ社のシリーズは,子供向けにリライトされたものだということが分かった。なんと,江戸川乱歩が書いたものとばかり思っていたのは,別の人の手で書き改められたものだったのだ。今頃気付くのも間抜けな話だが,翻訳物や古文で書かれたものならいざ知らず,現代の日本語で書かれた作品を,わざわざ同じ日本語に書き直すなんてことがあるとは思ってもみなかった。実を言うと,江戸川乱歩の作品は,気味が悪くて,ほぼ全てを読んだとは言え,あまり好きではなかったのだ。しかし,大人になった今読んだら,印象がまた違うはずだし,そもそも子供向けに書き直されたものだったのなら,江戸川乱歩の本当の作品を読んでいないことになるのではないか。だとすると,釈然としない思いもする。ここはひとつ,オリジナル版を是非読んでみなければ。

そんな風に思って,まず手に入れたのが「妖虫」だ。タイトル通り,いかにも「妖しげ」で,江戸川乱歩らしいのではないかと考えたのである。しかし,読み終わっての感想は,あまり芳しいものではなかった。日本を代表する推理小説家の作品がこれ? 文体は確かに子供向けのものとは違うようだが,かといって格調高いものでもない。推理小説と言っても,現代の緻密なミステリーを読み慣れていて,刑事ドラマなどでも高度な科学捜査が行われていることを知っていると,隙がありすぎて楽しめないのだ。文学的な価値は別の所にあるのかも知れないが,推理小説の一読者としては,残念な感は否めない。

なんとなくすっきりしない気分のまま,もう少し調べてみると,江戸川乱歩の作品で評価されているものは,もっと初期のものらしいことが分かった。そこで,短編集を1冊購入してみることにした。光文社文庫の江戸川乱歩全集 第1巻,「屋根裏の散歩者」である。注文したのが届いてまず驚いたのは,なんとも分厚いこと。1冊1050円もするのだから,予想できないものでもなかったのだが,約740ページもある。収録されているのは,初期の短編が22編。それぞれの本編の後に,著者の解説がついているので,江戸川乱歩という作家を知るには,なかなか良い本と言えそうだ。

まずは,最初に収録されている「二銭銅貨」を読んでみた。30ページほどの作品なので,すぐ読めてしまうのだが,これがなかなか面白い。トリックやストーリー展開は,後から考えれば,無理があったり突っ込みどころも多いのだが,それを差し引いても,純粋に「読み物」として面白いのだ。続いて,評価の高いらしい,「屋根裏の散歩者」や「人間椅子」も読んでみたが,いずれもなかなか。両作品とも,異常な性癖の持ち主が主人公で,何とも異様な感じを受けるが,その反面,誰の心の内にも似たような欲望が秘められているような気がして,現実離れした異常性とは片付けられないように思えてくる。そして,その描写がまた生々しくて,真に迫るものがあるのだ。実は,これこそが江戸川乱歩作品の魅力なのではないだろうか。

恐らく,今回読んだ短編は,小学生の頃には読んでいないと思われる。「二銭銅貨」は,ポプラ社のシリーズにも収録されていたようだが,例によって全く記憶にない。もっとも,原作には出て来ない,明智小五郎が登場しているらしいので,若干内容が変わっているのかも知れない。いずれにしても,1冊読んだくらいで,簡単に決めつけてしまわないで良かった。評価されていると言うことは,それだけの理由があると言うことなのだろう。全てを読み直してみる訳にもいかないだろうが,あといくつか,評判の良さそう作品を読んでみようかと思っているところである。


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