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錦織くんの課題 [スポーツ観戦]

久し振りのブログ記事。

2015年のRoland Garros,錦織くんはベスト8まで進んだものの,地元のTsongaにフルセットの末惜しくも敗れて,ベスト4入りはならず。

「惜しくも」? スコアだけ見ればそうかも知れないけど,最初から最後まで観ていた人間にとっては,全くそんな感じはしない。何しろ,最初の2セットは最悪だった。錦織くんが初めて自分のサービス・ゲームをキープできたのは第2セットに入ってからだ。そんな試合,想像できるはずもなかったし,信じられなかった。4回戦の時とはまるで別人。勿論,調子の悪い時は誰にでもあるので,いつ修正できるかが鍵だった。しかし,第2セットに入っても,一向に調子が上がらない。サービスは入らず,ミスも減らない。そして,いきなりブレイク。本当に,このまま何も出来ないまま終わってしまうのかと思った。あの「事故」が起こるまでは。センターコートの観客席の上の方に,強風で煽られた何かの看板が落下したのである。不運なことに負傷者まで出た。この騒ぎで,安全確認のため試合は30分ほど中断。この間,恐らくマイケル・チャン・コーチらと話して自分を取り戻すことが出来たのだろう。再開後の錦織くんは,ほぼいつもの錦織くんに戻っていた。しかし,時既に遅し。セット終盤で,2ブレイク・ダウンを挽回するのはさすがに厳しく,第2セットも落とす。第3,4セットを連取したとはいえ,いくらなんでも,2セット・ダウンからTsongaを逆転するのは至難の業だった。不謹慎ではあるが,看板があと3ゲーム,いやあと2ゲームでも早く落下していたら...。

いやいや,そんなことではダメなのだ。もはや若手とは言えない,TOP 5プレーヤーなら,本来自力で修正できなければいけないのだ。アクシデントがなければ惨敗していた,なんて洒落にもならない。力がないわけではない。実際にアクシデントから実力が発揮できるようになったのだから,そのきっかけをどうするかというだけの問題なのである。その時の状況や環境に委ねるか,自力で突破口を見出すか。今回,錦織くんが自力で修正できなかったことは,端から見ていてショックであった。

思えば,昨年のUSオープンの決勝の時も,似たような状況だったように思う。Cilicは確かに調子が良かったが,錦織くんがいつも通りの実力を出すことができれば,勝てた試合だったはず。以前に比べれば,格段にメンタルが強化された錦織くんだが,こうして自分で自分を追い込んで,抜け出せなってしまうことがあるようだ。本当の力を知っているだけに,コーチ陣も歯がゆいところだろう。

調子を取り戻した後の,ファイナル・セット。あれもまた,錦織くんの別の課題が見えてしまったものだった。第1,2セットに比べれば,動きは悪くない。しかし,ほんの少し,ほんの少しだけ気の緩みが出てしまったのだろうか。第3,4セットで大幅に改善されたファースト・サービスがまた入らなくなる。ダブル・フォールトを犯す。なんてことなさそうなアンフォースト・エラーでポイントを落とす。最初のサービス・ゲームこそ,なんとか凌いだものの,結局先にブレイクを許してしまう。私は,ここにこそ,錦織くんの最大の課題があると考えている。

錦織くんは,このところ,ランキング下位の選手に取りこぼすことがなくなった。それだけの実力差がついてきたことは間違いない。ましてや,錦織くんは世界屈指のリターナーである。下位選手からなんて,いつだってブレイクを奪える。そして実際に,いとも簡単にブレイクを奪って見せるわけだが,一方でそれがサービス・ゲーム・キープへの執念を阻害しているのではないか。事実,下位選手相手でも,錦織くんはあっさりブレイクを許してしまうことが多い。そしてその原因は,半分くらいは自分のミスである。ミスは誰にでもあるし,ブレイクされたことを心理的に引き摺るのはよくないことだ。次の相手のサービスをブレイクすれば良い。ただ,それが行き過ぎてしまって,ブレイクされる前から,ブレイクされても気にすることはない,というメンタリティになっているのだとしたら大問題である。取り返しているのだからいいじゃないか,ということにはならない。何故なら,上位選手相手にも同じメンタリティで臨んでいるように見えるからだ。

負ける試合は,大体いつも同じパターンになっている。簡単に先にブレイクされて,ブレイク・バックできないままセットを取られてしまうという形。圧倒的な実力差のない上位陣からは,下位相手と違っていつでもブレイクを奪える訳ではない。上位相手には,まず自分のサービスを死守して,その上でチャンスを待つのが鉄則。特に,Raonicなどのビッグ・サーバー相手の場合,ブレイク・チャンスは極端に少ない。典型的には,両者キープでタイ・ブレイクにもつれ込み,そこでワン・チャンスをものにするのが,勝つためのパターンだ。それなのに,自分のサービスを簡単に落としてしまっては,チャンスも訪れない。そしてこういう時,,錦織くんは大体,ファースト・サービスがほとんど入らず,更にはダブル・フォルトのおまけ付きで落としているのである。

昨日のファイナル・セットのTsongaも,(今はランクを少し下げているとはいえ)まさにTOP 10プレイヤーたるビッグ・サーバーだった。第3,4セットで落としていたファイスト・サーブの率も改善され,容易にブレイクできないのは素人目にも明らかだった。で,案の定の展開である。

下位相手に盤石なのはいい。横綱相撲だと思えば,多少雑な面があっても,最終的に危なげなく勝てば問題はないかも知れない。しかし,ブレイクされることに慣れてしまってはダメなのだ。TOP 5プレイヤーなら,下位を叩き潰すくらいの勢いで一蹴して欲しいのである。2ブレイク・アップのサービング・フォー・ザ・セットを,落としても痛くも痒くもない,と思うのではなく,1ゲームも余分なものはやらないくらいの勢いで圧倒して欲しいのだ。そして,それこそが上位と対戦する時に,サービス・ゲームを死守する姿勢に繋がってくると思っている。下位と上位とで心構えを切り替えるより,よほど自然ではないだろうか。

勝敗はともかく,最近の錦織くんの試合を観ていて,フラストレーションを感じる理由は,そこに尽きる。1ポイントに対する執念,勝利に対する執念が感じられないのも,そこから来ているのだろう。ミスをすると吠える選手がいる。あれがメンタルを乱すのなら良くはないのだが,BIG 4などもやっているし,彼らはそんなこと百も承知のはず。あれは執念の発露であり,それによって集中力を高め,プレイの精度を上げているように見える。相手に執念を見せることの効果もあるだろう。かたや錦織くんは,難しい顔で首を振ったり,ため息をついたり。素人目にも,あまり良い効果はなさそうだ。

当然,マイケル・チャンら錦織陣営も充分分かっていることなのだとは思う。だから任せて待つしかないのだが,結局は錦織くんが変われるかどうかにかかっている。GS優勝やNo.1になるためにも,なんとか克服して欲しいものだ。

それにしても,なんであんなにファースト・サーブが入らないんだろうねぇ。


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