「イニシエーション・ラブ」 [本]
乾くるみ 著「イニシエーション・ラブ」文春文庫 |
「イニシエーション・ラブ」という小説を読んでみた。
この本が,巷で話題になっていたのは,何となく知っていた。電子書籍の売上げランキング上位に入っていたし,ニュースの見出しでも何度か見た気がする。しかし,話題性があることが必ずしも良い本ということには結びつかないことも知っているので,特に興味を持ってはいなかった。それがある時,電子書籍が割引セールでだいぶ安くなっており,しかも予想外なことにミステリーに分類されていた。これってミステリーだったのか。それなら多少質が悪くても読めるかも,と思って買ってみたのである。話題の書籍なら,話のタネに読んでおいても悪くはない。
そんな訳で,事前に何のレビューも見ずに読み始めた。内容は,大学時代から社会人になる頃の,良くある若い男女の恋愛ストーリー。全くありきたりの展開で,山らしい山もなくどんどん残り少なくなってくる。一体いつ事件が起こるのだ? これのどこがミステリー? 徐々に不安が大きくなりつつ,更に読み進めていくと,なんとそのままあっさり終わってしまった! なんだこの本は? こんな本のどこがどうして話題になったのだ?
釈然としなかったので,Webで調べてみた。すると「最後から2行目」で大どんでん返し,などと書いてある。最後から2行目って,あれか。確かに変だとは思ったけどね。それが何だって? 私は,ミステリーは読むけど,自ら謎解きをする気はない人なので,さらなるネタバレ情報を探す。なるほどね。そういうことなのね。ふーん。
いや,別にここにネタバレを書かないようにするために,伏せて書いた訳ではない。本当にそれだけの感想しか湧かなかったのだ。その大どんでん返しを知ったら,絶対もう一度読みたくなる,という触れ込みなのだが,全然そんな気分にならない。確かに良く計算された叙述トリックと言えるだろう。しかし,これはもう叙述トリックのためだけに作られた小説だ。これが小説として評価されるとは,どうにも釈然としない。そもそもストーリーが陳腐すぎる。何も心に訴えかけるものがない。元々感動がないところを,いくらどんでん返ししてもたかが知れている。無理してもう一度読んだとしても,ここは実はこういうことだったのか,と納得する程度のことにしかならないだろう。それが先程の「ふーん」なのだ。真実が見えても,底の浅いストーリーには変わりがない。
なんというか,タネが分かってしまった手品のようなものだ。よくそんなこと思い付くなとか,よくタネがバレないように演じられるなとか,感心はするが,タネが分かってしまった手品にもはや感動はしない。この本をもう一度読むというのは,それと同じことではないだろうか。いや,タネを知らずに読んだ最初にも感動がないのだから,手品と比較するのは失礼かも知れない。
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