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ネット世論の暴走 [時事/評論]

久々に朝鮮日報の記事より。

この記事が伝えているのは,最近韓国で起きた事件の顛末。とある飲食店で,店員と口論になった妊婦が,店員に腹を蹴られたとTwitterなどに書き込んだことから,ネット上で店への集中砲火が起こった。ある人気歌手が,無責任にも同調して煽ったことも,事態が急激に拡大した原因のひとつだろう。しかし,その後の警察の調べでは,店員が妊婦を蹴った事実はなく,逆に妊婦の方が店員を蹴ったことが明らかになったという。ネットでは今,妊婦の方に非難の矛先が向かって大騒ぎらしい。全く,懲りない連中だ。

韓国のネット社会では,特定の個人や企業に非難を集中させて,国民的なバッシングに発展するのは,さほど珍しいことではない。芸能人が対象となることも多く,ノイローゼになったり,中には自殺を図るケースも出ている。極めて深刻な社会現象なのだが,未だ有効な対策が打てないでいるようだ。しかも今回の事件は,事実無根のことに短絡的に反応したものであり,より危険性が高いと言える。相手が企業だったからまだしも,個人攻撃で健康に害をなすようなことになっていたら,取り返しのつかないことになるところだった。

これは韓国の国民性という側面もあるのだろうが,日本も対岸の火事と暢気に構えてはいられない。似たようなことは実際に日本でも起きている。折しも先日,昨年の「カンニング事件」にまつわる記事が朝日新聞デジタルに載っていた。犯人の話ではなくて,いたずらで「犯人を装った人」の話だ。この人は,ちょっとした思い付きで,「犯人」が使用したIDと同じものを使い,「犯人っぽい」発言をネットでしたらしい。それから,この人の個人情報がネットに晒されるまでは,あっという間の出来事だったようだ。

この件では,事件(といっても,「たかが」カンニングなのだが)が起きているのに,捜査を撹乱するような行為を敢えてしたこの人にも,明らかな非がある。しかし,果たしてそれは個人情報を公開されて,晒し者にされるほどの非だろうか。その後の人生を狂わされるような過ちだろうか。そもそも,法治国家である日本では,裁判によらず罪を裁かれることはないし,私刑を行うことは認められていないのだ。

日本と韓国で,問題の原因や経緯は異なるものの,結果的にやっていることは全く同じである。履き違えた正義感で,他人の人格と権利を蹂躙する行為だ。最終的に犯人でないことが分かって,やり過ぎだったことが分かっても,この連中は匿名性を隠れ蓑にして,何ひとつ責任を取ることはない。攻撃された人の生活が滅茶苦茶になっても,罪の意識すら感じないかも知れない。正義感どころか,極めて卑劣である。そして,これは紛う事なき犯罪だ。

こんな事件が続くようだと,またぞろネットの匿名性を排除する動きが活発化しないか心配だ。匿名性は,卑劣な連中の隠れ蓑としてだけでなく,善良な市民にとっても大切な武器なのだ。匿名性が失われると,強い力を持つものに対する批判がしにくくなる。政治や警察組織などを批判して,不利益を被らない保証がなくなってしまう。まさに恐怖政治の時代へ逆戻りだ。実際,最近のslashdot.jpでは,インターネットを規制する国際条約について,国連で話し合われることが報じられている。どういう内容のものなのかについては情報がないが,中国やロシアが推進しているというところから,検閲的なものが含まれている可能性は高い。極めて憂慮すべき事態である。

今回のようなネットの暴走が続くようだと,日本や韓国でも,こうした動きに同調する意見が出てくる可能性はある。そうなる前に,暴走をよりよい形で食い止める施策を,真剣に考えていくべきなのではないだろうか。


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